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運航乗務員の審査と訓練

前項の「運航乗務員の資格」でも触れましたが、運航乗務員は運航乗務員になるための訓練や乗務する機種を変える為の訓練(前項でも述べましたが、旅客機の操縦資格は機種ごとに取らなければなりません)、さらに副操縦士から機長に昇格するための訓練・審査などに合格して旅客を乗せて乗務しています。また、それ以外にも定期的に審査や訓練を受けてそれらに合格しないと乗務停止となります。この項ではそれら運航乗務員が受けている審査・訓練の代表的なものを見ていきましょう。

運航乗務員になるための(=副操縦士になるための)訓練

基礎訓練

まずは最低限必要な「事業用操縦士」、「多発限定拡張」、「計器飛行証明」を取得するための訓練がこの「基礎訓練」です。航空力学や気象、法規などの座学の後(この段階で事業用操縦士学科試験には合格しなければなりません)単発機(ビーチクラフトボナンザなど)を用いて事業用操縦士免許を取得します。なお、フライト時間が20時間程度で「ファーストソロ(初の単独飛行)」が行われます(一部には上空で教官がいないのを確認して、「教官のバカヤロー」と絶叫する習慣がある?ようです。また終了後水をかけられたりプールに投げ込まれるのは慣例です)。
その後エンジンが複数ついている飛行機を操縦するための「多発限定拡張」と計器飛行(旅客機は通常この方式で飛行します)をするために必要な「計器飛行証明」を双発機(ビーチクラフトA90キングエアなどの双発機、ちなみに昔の日本航空の自社養成ではジェット機ファルコンが使われていたケースがありますが−まだつばさ出版の民間航空雑誌月刊「翼」があった頃ですから1980年代までか?−、普通は双発プロペラ機です)の操縦訓練を通じて取得します。エンジンが二つついていることから、お約束の「片発停止」対処訓練は日常茶飯事です。ここまでで基礎訓練は終了となります。

副操縦士昇格訓練

乗務する機材が決まり、その機材の限定を取得して副操縦士としてデビューするための訓練です。まず機材の構造やシステムなどを覚えさせられます。次に操縦手順を覚えるため(異常発生時のみならず、正常運航時も手順が定められています)、専用の装置(概ねモーションとビジュアルを省いたシミュミレーターが使われることが多いようです)を用いて習得します。それが終わるとついにフルフライトシミュレータでの操縦訓練となります。当然悪天候や機材故障などが次々と襲う中での訓練となります。他の訓練(機種移行訓練など)ではシミュレーターで試験を行いライセンスが発行されますが、副操縦士昇格訓練では訓練生は実機の乗務経験が無いため、実機訓練が行われます(おかげで下地島空港の使用率が下がってしまいました)。ここでは7時間ほどの訓練ですが、(ひたすらタッチ&ゴーを繰り返すそうです。この後OJTを経て最終審査に合格すると副操縦士としてデビューします。

機種移行などのその他の訓練

  • 機種移行訓練:機種を変わるためには機種移行訓練を受けなければなりません。概ね内容は副操縦士昇格訓練と似たようなものですが、既に実機の乗務経験があることから、フルフライトシミュレーターのあといきなりOJTとなります。
  • 機長昇格訓練:副操縦士は「事業用操縦士」免許ですが、機長は「定期運送用操縦士(ATR)」免許のため、まずその免許を取得しなければなりません。ただ実際にはそれだけでは済まず、日本航空の「レフトシートフェイズ訓練」など厳しい訓練が行われているようです。
  • 復帰訓練:病気や妊娠・出産などで乗務を離れてから復帰する時(悪い言い方をすれば、航空身体検査に不合格となり、しばらく乗務から離れていた場合)や同一資格で以前に乗務していたことのある機種に戻る時は復帰訓練が行われます。

乗務中もついて回る審査・訓練

定期技能審査

定期的に操縦士の技能を審査するものです。現在は1年ごとに科せられているようです(昔は機長は半年毎に受けていました。そこでこの審査を「シックスマンスチェック(6ヶ月機長定期技能審査)」と呼んでいました)。ここでは機材故障時の手順・技術が保たれているかが審査されます。「離陸滑走中のエンジン故障(故障が起こった時点により、緊急停止する場合とエンジン故障を抱えたまま離陸を続行する場合に対応が分かれる)」をはじめ、「急減圧緊急降下」、「油圧故障時の対応」、「悪天候時の着陸」などの審査項目が次々と襲ってきます。もちろん墜落してしまったり、手順を間違えたりしたとしたら「不合格」となり、合格するまで乗務停止となることは言うまでもなりません。
なお、この審査はシミュレーターの力を借ります。それにより最低気象条件などの作成が容易にできますし、何より「急降下」など危険を伴うことでも安全に審査でき、また手順を実際に行うことができる(もし実機で行った場合は、エンジン消化レバーを操作する「まねごと」で終わってしまい、本当に操作レバーを動かすことができない(本当に消化剤が発射されてしまいますから)という欠点を解消できるからです。

LOFT

これは昔は行われていなかったようです。運航の中で機材故障や天候悪化、そして急病人などの客室の都合が複合的に襲ってきて、総合的な能力が問われるもののようです。例えば、「機材に重大ではない故障が発生したため、監視しながら飛行していた。そこに乗客の妊婦に陣痛が始まり、出産が近く一刻も早く緊急着陸しなければならなくなった。しかし、最寄りの空港は雪が降っており、機材故障を考えるとその空港への着陸は適当ではない。さあどうするか?」というようなシナリオで訓練が進行していきます。いうなれば機材故障(定期技能審査)、悪天候の経験(通常の業務)、機長と副操縦士の連携など、ここのパイロットが持っている全能力を結集しなければ対応できない、より厳しい訓練がこの「LOFT」というものです。ある意味定期技能審査などできて当たり前で、それを前提としてこの訓練があるといえるでしょう。なお、一般的には機長になった月に定期技能審査を受け、その半年後にこの「LOFT」訓練を受けるようです。

航空身体検査

機長は6ヶ月ごと、副操縦士は1年ごとに航空身体検査を受け、合格しなければなりません。不合格になった場合は、乗務に必要な資格の一つが欠けるわけですから、当然ですが乗務停止です。

査察操縦士−試験官

操縦士資格の実技試験や技能審査などの審査は誰が行うのでしょうか?国(国土交通省)の試験官が行う事もありますが、多くの場合は航空会社の「査察操縦士(当然ですが機長です)」が行います。査察操縦士は試験の出題者でもあり試験官でもあり、また採点・合否判定者でもあります。この、「査察操縦士」を題材にした小説が、2005年に出版されましたので、紹介したいと思います。

新潮社から2005年7月に発行された、「査察機長」(内田幹樹著)がそれです。元全日空の運航乗務員であった方なので、リアリティがあります。

概略を紹介すると、(今は「空港資格」に変わっているかもしれませんが)機長に年一回義務付けられている(いた?)「機長路線資格審査」が題材になっています。これは実際に乗客を乗せた便を使って、その路線を飛ぶのに必要な知識・技能が維持されているかを審査するものです。この小説では北米線の審査として、B747-400での、「東京−ニューヨーク線」が審査の便になっています。登場人物として、

同便のクルー関係

  • 村井新人機長:つい最近機長に昇格した。今回が初の路線審査で、いきなり氏原に当たり気が気でない。非VNAV派(注)
  • 氏原査察機長:次期査察室長。非常に厳しいことで同社の運航乗務員の間で有名。村井の同期の相沢を機長昇格審査でフェイル(不合格)にする。また、食事・飲み物の好き嫌いが激しいことで、客室乗務員の間でも有名。なお、同機の運航手順決定に関して中心的な役割を果たす。VNAV派(注)
  • 大隈教官機長:復路で審査を受ける。往路ではコーパイ役。チーフパーサーの山野とは何度か一緒の便で乗務しているため知り合い。VNAV派
  • 山野チーパー:同便のチーフパーサー
  • 白鳥客室乗務員:コックピット担当の客室乗務員
  • スポーツ選手の団体:同便のビジネスクラスの乗客。食欲旺盛で機内の食事が足りなくなり、乗務員の食事(本来はクルーミールを積んでいる)が悲惨なことになる

その他の登場人物

  • 宮田副操縦士:村井の同期。村井同様ホテルに前泊し、村井と共に食事を取る。その席で相沢から聞いた氏原についての話をする。

注)VNAV:現在ではほとんどが「ハイテク機」になってしまいましたが(ハイテク機とは1980年代にできた言葉でそれまでのB747-300やDC-10などに対し、B767・B747-400・A320・B777などの機種のことを指す言葉。つまり、現行旅客機の多くがハイテク機となっている)、FMS(飛行管理装置)を装備した「ハイテク機」では、飛行時間や燃費を考慮してFMSが航法計算を行い、水平方向の航法を司る「LNAV」と垂直方向の航法を司る「VNAV」を合わせて自動操縦により運航します。上空(巡航中)ではほとんどの乗務員が両方使うでしょうが、空港への進入時に「レーダーベクター(レーダー誘導)」が始まると、「VNAV」を維持したまま進入をする人と、「VNAV」を解除してしまう人と両方いるようです。ここでは前者を「VNAV派」、後者を「非VNAV派」とします。蛇足ですが横方向の「LNAV」はまず全員が解除します(というよりも、「HDG SELL」モードになってしまうためです)本書では十章でこの話が出てきます。

本文の読みどころとしては、

  • 村井と宮田の食事の席で語られる氏原による相沢の機長昇格審査(一章「前日」)
  • スポーツ選手の団体により、機内の食事が食べつくされてしまい、乗務員の食事がカップ麺などと、悲惨なことになる(七章「カップ麺」)
  • 共にパイロットの生死与奪を握る教官操縦士と査察操縦士との愚痴?話(九章「査察機長」)
  • 査察操縦士(特に氏原)が何を基に審査をしているかを村井が大隈に聞くシーン。進入時にVNAVを維持するのか解除するのかを村井と大隈が議論するシーン。また、チェックのあまり、考え方がコーパイのようになっている村井を大隈が叱責するシーン(十章「イエローナイフ」)
  • 降雪で最低気象条件になっているニューヨークJFK空港に進入・着陸する(十二章「雪雲」・十三章「ファイナルアプローチ」)
  • 審査のデ・ブリーフィング、また和食屋で審査の合否基準などを氏原が話す(十四章「機長の誇り」

等です、なお、同小説を紹介する「月刊エアライン2005年9月号」の記事(11ページ)によると、氏原査察機長は「平均すれば査察機長とはこんな感じ」ということらしいです。ちなみに同小説の275ページにある氏原がチェックでフェイルにする基準、「最終的には、この人の飛行機には自分の家族は乗せたくない」というくだりには、有斐閣ビジネスから出版されている、「機長席からのメッセージPart2」(加藤常夫・上田恒夫共著)の「査察操縦士」の章で加藤常夫氏(既に定年退職されている元日航機長で、査察乗員部部長(つまり査察室室長と同じこと)も務められています)が、合否の境にいるときは、「同僚の中には、自分の家族を安心して乗せていられるか」を合否基準にする人もいるということを書いていて(もう既に同書を廃却してしまったため、詳しいページは分かりません。ご了承ください)、やっぱり考えていることは同じなんだなと感じています。

同書は若干の専門知識がある方がより面白く読めますが、大変オススメの小説です。
なお、旅客便の操縦についての知識を得るための本としては(個人的にはいきなりDVDやビデオよりも、本の方がいいと思っています。CD付きの方がよりベター)

  • 機長席」(朝日ソノラマ・武田一男著・2000年1月)一般向け。新千歳発羽田行きB777-200実機のフライトを書き起こした本、CD付き。
  • 旅客機操縦マニュアル」(イカロス出版・月刊エアライン編集部・1998年4月):超上級者向け。高知発宮崎行きのB737-500型の架空フライトを設定し、手順全てを詳細に解説。

をおすすめします。

なお、国土交通省試験官と社内査察操縦士の使い分けですが、公的ライセンス取得時の審査(副操縦士昇格訓練機種限定取得実機審査や定期運送用操縦士実技審査)は国土交通省試験官が行い(査察操縦士も一緒に審査することが多い)更新時審査(機長定期技能審査など)や社内での審査(副操縦士や機長OJT修了時の審査)などは査察操縦士のみで行われるようです。なおこれは想像ですが、パイロット人生でもっとも厳しい審査は「機長OJT修了時の口述審査(査察操縦士)」かと思われます。